この記事を読むとわかること
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投資は無理してまでするものではない
投資は、万人にとっても必須なものという訳でもなければ、ごく一部の人が行うべき特別なものという訳でもありません。銀行預金を特別視する人は少ないように、投資を特別視する必要はなく、あくまで資産を守る(そして増やす)ひとつの手段として捉えると良いでしょう。
ですが、投資の結果は常に不確実なものです。このため投資を始める場合は、自分がどの程度のその不確実性に対して耐性を持っているか(これをリスク許容度と言います)を前もって把握しておくことが大切です。リスク許容度を無視した投資は、不要な損失を招く可能性があります。自らのリスク許容度に合った投資を計画しましょう。
まずは家計の状態を知ろう
リスク許容度を考える上で、まず基本となるのは経済的なリスク許容度です。収入・支出・資産等の家計の状態に基づく経済的なリスク許容度を知ることで、自分がいくらまで投資できるか(すべきか)を検討するのに役立ちます。
家計簿アプリはこの点で非常に便利です。オンラインバンキングやクレジットカードを連携させれば、家計に関するデータを自動的にまとめられ、自分の資産や支出を把握できます。
特に、自分の支出を正確に把握することは、投資に関わらず非常に重要です。
意外と多くの人がこのことを見落としています。冒頭で述べたように、投資は資産を守るひとつの選択肢に過ぎません。資産を守る(または増やす)というの観点から見ると、投資よりも先にまずは無駄な支出を削減することがもっと確実で効果的な選択です。リスク許容度を測るついでに、非効率な支出がないかを見直してみましょう。
いくらまで投資をしていいのか
家計の状態を把握できるようになると、いよいよ自分がいくらまで投資する余裕があるのかが見えてきます。まずは、当面の生活に必要な資金(生活防衛資金とも言われます)を確保します。
生活スタイルや年齢、家族構成、または共働きなのか否かなどによって、当面の生活に必要な資金は変わりますが、概ね6-8か月分の支出をまかなえるようにすることが望ましいです。この生活に必要な資金に対しては、リスクを取らないようにしましょう。
貯蓄(預金)が生活に必要な資金の額を上回っている場合、上回っている部分に関しては全額投資に回してしまっても経済的には差し支えはありません(ただしその投資は、NISA口座で行えるような、いつでも解約・出金できることを前提とします)。
いざ不足の事態となっても、(そのとき投資の損益がマイナスになっているかもしれませんが)すぐに現金化することができれば、生活防衛資金と合わせてその困難を乗り越えることができると考えられます。
生活に必要な資金の額を上回っている部分をすべて投資に回しても構わないというのは、あくまで経済的な話です。リスク許容度にはもう一つ重要な要素があり、それは心理的なリスク許容度と呼ばれるものです。
心理的なリスク許容度
心理的なリスク許容度は、不確実性に対する人それぞれの「感じ方」であり、個人差の大きいところです。保有資産が大きい人ほど経済的なリスク許容度は高いと言えますが、どんなに経済的なリスク許容度が高くとも、心理的なリスク許容度の低い人は投資を控えめにしましょう。例えば、少しでもマイナスが出ると許せないという人は、投資を行うべきではありません。
心理的なリスク許容度は、実際に投資を経験してみないとわからない部分もあります。多くの人は投資開始前には「長期的に見れば大丈夫」と考えていますが、実際にマイナスの数字を目の当たりにすると、投資をやめてしまうことがよく見受けられます。
ひとつの尺度として言えるのは、例えば、投資開始後に毎日その評価額を気になるようなら、心理的なリスク許容度を超えていると言えるでしょう。
くどいようですが、投資の結果は不確実です。長期的に利益が出るかどうかさえ不確実であるのに、1日の結果などほとんどランダムなノイズに過ぎません。1年の結果でさえ、ランダム性が強いのです。1日の、いわばサイコロの結果に一喜一憂するのは、健全な投資行動とは言えません。
実際、短期の損益を気にしすぎることが長期的な結果に対してマイナスの影響を与えるという報告(※)もあります。これは、心理的許容度を超えたリスクを取ること自体が、たとえ長期的に見て合理的な投資をしていたとしても、後の投資行動に悪影響を及ぼし損益を傷つけることを示唆しています。
したがって、頻繁にチェックしなくても良いレベルでの投資が、心理的なリスク許容度に適しており、それが長期的に最適な投資行動につながることを知ることも大切です。
リスク許容度を超える投資は、長期投資実現の阻害要因となります。自分の経済的、心理的リスク許容度を軽視することなく、ストレスのかかりにくい範囲で投資を継続しましょう。
※Benartzi, S., & Thaler, R. H. (1995). Myopic Loss Aversion and the Equity Premium Puzzle. Quarterly Journal of Economics, 110(1), 73-92.
- リスク許容度に対する説明として、次のうち誤っているものはどれでしょう?
- 正解は・・・
C経済的に十分余力があれば、リスクを取るべきだ。
経済力が高い人ほどリスク許容度が高くなる傾向にありますが、心理的なリスク許容度もまた重要な要素です。経済力だけでリスクを取ろうとするのではなく、損失に対する感じ方にも目を向けることが大切です。