この記事を読むとわかること
目次
Q:NISAでは配当も非課税になるため、高配当銘柄を中心に投資すべき?
NISA制度では、将来の値上がり益だけではなく、受け取る配当に関しても非課税になるため、配当の高い銘柄を購入することが大きなメリットに繋がりそうですが、高配当銘柄を投資の中心に据えるべきでしょうか。
A:配当目当て(だけ)の投資は避けるべき
端的に言えば、配当利回りの高さだけを理由に保有銘柄を決めるのは適切ではありません。銘柄の選定は、その企業の業績や将来性(ファンダメンタルズといいます)に基づいて行うべきです。
NISAの制度では、配当が非課税になることは確かですが、値上がり益も非課税です。したがって、利益をどのような形で得ようと非課税であることに変わりはありません。あえて(値上がり益ではなく)配当としてリターンを得ることに特別なメリットはないのです。
高配当銘柄を中心に投資を検討する場合は、「高配当銘柄が、配当の少ない銘柄よりも将来得られるリターンが大きい」と認められるとき、またはそのような見通しを持つ場合に限られます。
単に配当の多寡(大小)だけでは将来得られるリターン(値上がり益+配当益の合計)に差は生じないという理論があります。これは「モディリアーニ・ミラーの配当無関連性命題」として知られ、50年以上も前に提唱されたものです。モディリアーニは1985年に、ミラーは1990年にノーベル経済学賞を受賞しています。
配当無関連性命題の詳しい解説はここでは避けますが、簡単に説明すると次の通りです。
同じファンダメンタルズを持つ企業AとBがあったとします。A社は企業活動によって得られる利益をすべて配当に回し、B社は利益をすべて事業拡大のための先行投資に使用する(配当を全く払わない)とした場合、A社とB社に投資する投資家の得られるリターンはどうなるでしょうか。
- A社は、生じた利益をすべて配当に回すため、投資家は利益の分だけ配当を受け取ることができますが、先行投資を行わないA社の将来のビジネスが拡大していくことは期待できず、株価の値上がり益を得ることはできません。
- B社は、生じた利益をすべて将来のビジネスへの先行投資に回すため、投資家はまったく配当を受け取ることはできませんが、一方でビジネスの拡大ともに株の値上がり益が期待できます。
配当無関連性命題では、これらのAとBの企業を比較したとき、投資家が得られるリターンに差は生じないはずだという結論に至ります。つまりA社の投資家の得る配当益と、B社の投資家が得る値上がり益の大きさに差は生じないということです。企業がどのような配当性向(利益のうち何%を配当に回すのかの比率)を設定しようとも、投資家の得るトータルリターン(値上がり益と配当益の合計)に差は生じません。
この配当無関連性命題が正しいとすると、銘柄選定に必要なのは、その企業のファンダメンタルズであって、配当の多寡ではありません。現実世界は必ずしも配当無関連性命題で想定されるような単純合理的な世界ではないものの、配当の大小だけを見て銘柄選定をすると、想像した結果にならない可能性があることに注意が必要です。
そして、この配当無関連性命題と、NISAの制度を合わせて考えると、さらに興味深い結論に至ります。
NISA制度の特性を考えれば、むしろ無配当で成長を優先する銘柄の方が有利
配当無関連性命題によると、配当の多寡に関わらず、投資家の将来得られるリターンに差は生じないとされます。したがって、配当がない企業に投資していても、投資家は株式を少しずつ売却することで、疑似的な配当を自身で作り出すことが可能です。
例えば、上の例のB社に投資している投資家は、保有しているB社の株を一部だけ売却することで(たとえば値上がりした分だけ)、A社の配当と同等の現金を手に入れることができます。NISAでは、配当を受け取る場合も、株を売却して値上がり益を得る場合も、どちらにも税金はかかりませんので、経済的な効果は同じです。
しかし、株を少しずつ売却して値上がり益を確保する方法には、配当で利益を受け取るよりもメリットがあります。それは、NISAの投資枠の回復です。
NISAの利用枠の残高は簿価で管理されていることを以前に説明しましたが、株式を売却すると、その簿価の分だけ利用可能枠が回復します。一方、配当を受け取っても、利用可能枠の回復はありません。利用可能枠が回復するということは、将来的により多くの非課税投資を行うことができるということです。
したがって、経済的に同じ利益が得られる場合、NISAでは配当益よりも、値上がり益を少しずつ実現することが理に適っています。
金融機関によっては「定期出金/解約」のプログラムがあるのでそれを活用しよう
配当金のような定期的な現金収入(キャッシュフロー)が必要な投資家にとって、NISAでは配当金を受け取るよりも、少しずつ保有証券を売却する方が合理的であることがわかります。ただし、この方法でネックとなるのは、定期的な売却が手間を要することです。配当の場合は自動的に現金を得られますが、数か月ごとに保有証券を売却するのは面倒に感じられるかもしれません。
しかし、金融機関によっては定期的に保有証券を自動売却するプログラムを提供している場合もあります。そのような機能を活用できれば、手間なく効率的にキャッシュフローを作り出すことが可能です。
安易に配当金目当てで特定の銘柄に手を出すのではなく、企業のファンダメンタルズに基づき、もっともトータルリターンが大きくなると考えられる投資を実行することが大切です。定期的なキャッシュフローが必要な場合には、金融機関の自動売却プログラム等を活用することを検討しましょう。
- NISA口座における運用益に関する説明として、正しいものは次のうちどれでしょう?
- 正解は・・・
C値上がり益も配当益も、どちらも非課税である。
NISA口座では、値上がり益も配当益もどちらも非課税であるため、運用益をあえて配当を中心に得ることに特別なメリットはありません。