この記事を読むとわかること
目次
Q:NISA口座で含み益/含み損になっている保有証券をどうすべきか
NISA口座における含み益や含み損に焦点を当てます。保有証券を売却して含み益を実現益として認識する行為を「利益確定」や「益出し」と呼び、含み損を実現損として認識する行為を「損切り」や「損出し」と表現します。これらの行動をどのタイミングでどう行うべきでしょうか。
A:見通しに変化がなければ、利益確定も損切りも必要はない
まず、含み益や含み損の存在自体が、投資行動を変更する直接的な理由となるべきではありません。投資行動を変更すべきタイミングは、市場や経済に対する見通しに変化が生じた時です。例えば、株式に対して強気の見通しを持っていたにも関わらず、株式市場が下落するとの見通しに変わった場合や、円安が進行すると考えていたところから円高見通しに変更する場合など、そのような状況では保有証券の売却や利益確定、損切りを検討すべきでしょう。そんなときには、『見通しが変わったとき』の記事を参考に、ポートフォリオの変更を検討してください。
見通しに変化がない場合、含み益や含み損にこだわる必要はありません。重要なのは現在の時価評価と、その将来の見通しによって投資行動を検討することです。過去の履歴、つまり利益を出してきた結果や損をした結果は、将来の投資結果には直接的な影響を与えません。
行動経済学では、含み益や含み損に基づいて投資行動を変えることをメンタルアカウンティング(心の会計)と呼び、これは一種の錯覚とされています。過去の履歴は将来の投資結果に影響を与えないため、含み益や含み損に基づいて行動を変えることは理にかなっていません。
例えばトヨタ株を保有していることを想像してください。あなたの投資が含み益だろうが含み損だろうが、トヨタの将来の企業業績(株価)にはまったく影響を与えないことはすぐに理解できるかと思います。
したがって、投資行動を決定する際には、常に現在の評価額に注目し、将来の見通しに基づいて慎重に考えることが求められます。
ただし、NISA口座では損出しすることが「節枠」になる
一般的には、自身の見通しに変化がない限り、益出しや損出しを実施する必要はありませんが、NISA口座を最適に利用する観点からは、含み損を実現損として一度認識し、再投資することが有用な場合があります。
『制度を使い倒そう』の記事でご紹介した通り、NISAの最適利用を評価する基準は、含み益をどれだけ拡大できるかにあります。含み損を抱えているNISA口座は、最適利用の観点から見てマイナスです。つまり、含み損を解消することが、NISA口座の利用最適化につながるのです。
具体的に説明します。例えば、100万円で始めた投資が時価評価70万円に減少したとします。市場に対する見通しに変化がなければ、そのまま保有を続けることも可能です。しかし、70万円の時価評価で一度全てを売却し、再度70万円で証券を買い直すと、新しい簿価が70万円に設定されます。2024年から恒久化されるNISA制度では、売却したNISA枠は簿価の分だけ翌年に回復します。したがって、時価70万円で売却しても簿価は100万円であるため、翌年には100万円の枠が戻ってくることになります。
これにより、追加投資や現金化をしていないにもかかわらず、NISAの簿価残高(利用中の生涯投資枠)が100万円から70万円に減少します。この効果を本ウェブサイトでは「節枠」と呼んでいます。
節枠により、NISAの生涯で利用できる投資枠が実質的に拡大します。たとえば先の例で言えば、節枠をしない場合、NISAの利用残高は100万円で、残された生涯で利用可能な投資枠は1,700万円です。しかし節枠取引を行うと、NISAの利用残高が70万円に減少し、残された生涯で利用可能な投資枠が1,730万円に拡大するということです。
節枠取引には、売却した価格で必ず買い戻せるわけではないこと(例えば投資信託の場合、売却から再購入までには1日から3日ほどの期間が発生する)、また買い戻しは年間投資枠の範囲内でしか行えないなどの制約があります。しかし、うまく節枠取引を行えば、NISA枠の簿価を圧縮し、より効率的に利用することが可能です。
- メンタルアカウンティングの説明として、誤っているものは次のうちどれでしょう?
- 正解は・・・
C保有していた資産が予兆もなく急に下落した後に、「もともと下落すると思っていた」と感じて下落した後に売却してしまうこと。
Cは後知恵バイアスとして知られる錯覚の一種です。メンタルアカウンティングと同様に、合理的な投資行動の妨げになることがあります。